私は秒針
私は秒針
時を刻むことが私の使命
1秒足りたも間違えずに
時間の在処を指し示す
今日も時針兄さんは遅い
何を考えているのかわからないが、鈍間な兄を持つと恥ずかしい
キビキビ動くように注意しても全然言うことを聞いてくれない
短い針なのに動きが遅いなんて…信じられない
分針姉さんは時針兄さんよりは早いけど
正直甘えている
ダメな兄とそこそこの姉を持つ私は大変な身だ
私は1日を示すために、汗水流して86,400回働いている
なのに、時針兄さんはたったの24回…
ふざけている!
分針姉さんだって1,440回は働いているのに…
使えない兄に毎日腹を立てる
「真面目に働け!」
「体たらくな真似をするな!」
「この怠惰担当!」
私の毎日の罵倒に
「まぁまぁ」となだめる分針の姉
黙ってニッコリ微笑む時針の兄
それを見て、私は毎度呆れる
私は兄弟を置いていくように、毎日バリバリ働き続ける
勝手にゆっくりのうのうと生きてろ!
私は正確に素早く時間を伝え続ける
今日も時針の兄は遅い
驚くことに1回も動こうとしないではないか!
これには、堪忍袋の緒が切れる!
怒鳴り散らそうと歩み寄ると何か様子がおかしい…
時針の兄の近くにいる分針の姉は何も言わずに泣いている
私に気付く
私を見て、涙が零れながらニッコリと微笑む
何が起こっているかはわからない
ただ、時針の兄は動かない…
分針の姉は涙を拭いて、いつも通りに動き出す
いつもの回数を淡々と…
私にはわからない
時針の兄が動かなくなっても、時は動き続ける
私もいつも通りに動き続ける
時針の兄は近くにいる、離れているように感じる
分針の姉とは話さなくなった
私にはわからない
時針の兄が動かなくなって、長い月日が経つ
今度は分針の姉の様子がおかしい
どうして…
黙って動かなくなったの?…
私にはわからない
私は変わらず、毎日動き続けた
止まった時針の兄と分針の姉を横目に
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日
私は涙を流し続けながら考えた
わからない私は必死に今を動きながら、
何度も何度も兄と姉を想って考えた
…ある時、私は気付いた
なぜ、時針兄さんは極端に遅いのか
なぜ、分針姉さんも私より遅いのか
「役割が異なるからだ」
私は今まで自分の尺度でしか相手を見ていなかった
自分は早く動けるから、相手も早く動けて当然だ
自分が頑張っているから、相手も頑張らなければ不公平だ
自分にできることは、相手もできるだろう
こんなの全て、決めつけだ!
私は知ろうとしなかった
時針の兄の役目を、やり方を、使命を、兄弟を心配する配慮を
私は知ろうとしなかった
分針の姉の思いやりを、心情を、気遣いを
大切な存在がいなくなって、気付いても、もう遅い
本当に遅いのは私だったようだ
慢心していたのは私だった
もし、もう一度…
兄と姉に会えるのなら…
共に同じ時間を進められたら…
『私は秒針』
Sweet Dreams!「よい夢を」
このエッセイを読んでいる人へ
「役割が異なるからだ」
自分の尺度で相手を見定めていませんか?
活躍できる場所はみんな同じ場所とは限りません
あなたが見えているのは、本当に能力が無い人物ですか?
悪いところにばかり、目が行って、良いところに視点が行っていないのではないですか?
毎日いると、変化に気付きにくいものです
危険のアラームを出しているのに、気付いていないフリをしていませんか?
毎日いると、変化を表に出しにくいものです
既にパンクしているのに、危険のアラームを出し忘れていませんか?
ふとした気付きと配慮を大切にして、大切な人を今一度、考えてみてください
エッセイについてはコチラを確認してください
エッセイとは エッセイとは特定の文学的形式を持たず、書き手の随想(思ったこと・感じたこと・考えたこと)を思うがままに書き記した文章のことである らしいです つまるところ、「自由に考えたこと自由に書いていくもの」です 凝り固まった[…]