1日の最後に読むのに丁度よい記事集

【Sweet dreams essay】桜

私は桜

私は桜
枝分かれした一本だ
若い夫婦が一人娘が生まれたこと機に
小さな丘に私を植えてくれた
キミは私と共にスクスク成長していった

毎年暖かくになると、家族で私に会いに来てくれた
ほんの数日、短い時間だけど、毎度満開の笑顔を見れるから少しも寂しくない
笑顔は私を心から癒してくれる
来年もまた来てくれることを心待ちにしよう

キミは泣きながら私の元にやって来た
桜色に腫れた目はまるで、私のようで少し嬉しく感じてしまった
ヨシヨシ
何があったかは、話さなくてもイイけれど、
話したくなったら、いつでもおいで!

キミはフラフラと私の元にやって来た
ツライことが多かったのか、
目の下には森の獣が逃げてしまうほどのクマができている
今日は暖かいからゆっくり休むとイイ
誰も強制する人はいないよ

キミは私より早く成長していく
赤子の時から見ていたのに、既に立派な女性になっている
人の成長を見守ることを喜ばしく感じる
私も負けないように成長を続けていきたい

キミは見知らぬ若者を連れてきた
私を自慢の木だと褒めて紹介してくれた
気遣いができて、キミのことを第一に考えてくれる素敵な伴侶を見つけたことに心からの拍手を送ろう
末永く、幸せに暮らしてほしい

実に喜ばしいことだ!
キミに新たな命を宿したことをキミが教えてくれた
今度はキミの子とキミの家族と会うことが楽しみだ

 

キミはあれから来なくなった
会うのが楽しみで、風が吹かなくても揺れているというのに

幾日も、幾月も、幾年も待った
しかし、一向に来なくなった

遠くから微かに見覚えがある者が私を訪ねてきた
隣にはどこか面影がある子を連れている
彼は私にゆっくり告げた
キミがキミの両親と共に既に亡くなったと聞かされた
流行り病だそうだ

彼はこの地を去ることも伝えてきた
彼は律儀な人だ
だからこそ、キミが選んだ人なのだろうと感じた
私を大切にしていた彼女からの最後の頼みだと聞いた

私は孤独になった
もう誰にも会うことは無い
キミに「ありがとう」を伝えたかった
キミに「おめでとう」を伝えたかった
キミに「さようなら」を伝えたかった
でもキミはもういない

なら、せめてキミが好きだった花を
毎年、暖かくなる時期に咲かせ続けようと思う
満開の笑顔が溢れ出す記憶を思い出すかのように

毎年、毎年、毎年
咲かせ続ける
誰も来ない、小さな丘で

 

キミがいなくなってから
記憶が曖昧になってきた
今は何年経ったのだろう…
暑い季節と寒い季節を繰り返し過ごし続けて覚えていない

時折、ここから遠い地で聞こえる野太い音や地鳴りのような爆発を感じた
馬が駆けて、弓矢が飛んで、人と人が争っているらしい
…私にはよくわからない
なぜ、人が争うのか

風の噂ではどこかの地で黒いキノコ型の噴煙が上がったそうだ
夜なのに明るかったそうで、不思議なことがあるものだと感じた
…私にはよくわからない
なぜ、人は同じ過ちを冒すのか

ひっそりと小さな丘で
暖かい季節に咲き続けているのはなぜだろう
…私にはよくわからない
私の存在価値ってなんだろう
自己を否定したくなってくる
私が壊れそうで、崩れそうで、考えることをやめた…

 

幾星霜が経っただろうか
ふと、気付くと小さなお客さんがいる
私を見つけると満開の笑顔でコチラを見つめ返してくる
なんだか、懐かしい気持ちだ
無垢なその子は私の花びらが散ると、追って拾い集めた
冷たい地面に散らばった花びらをせっせと拾う

集めた花を持って、私の根元に返した
「きれい、ありがとう」
お礼の気持ちが伝わってくる
私なんかよりずっと素敵な笑顔が私を癒してくれる
誰かのためにいることが、こんなにも私を肯定できるようになるなんて知らなかった

大切なキミ
私はキミのような笑顔を増やせるようにしていきたい
より多くの人に笑顔を届けたい
ツライ時、悲しい時、楽しい時、嬉しい時
大切な人のそばにいて、見守れる存在でありたい
そうしたら、キミも満開の笑顔をまた、見せてくれるだろうか

『私は桜』
Sweet Dreams!「よい夢を」

このエッセイを読んでいる人へ

花に笑顔をもらった人がいるなら、お礼にあなたも花に笑顔を返してもみてはいかがでしょうか
自分を救ってやれる人は強い人だ
自分で解決できるだけの強い精神があるからだ
でもみんながみんな、強い訳ではない

大切な人はいつ、あなたの元を去るかわからない
今日かもしれないし、明日かもしれない、なんなら、今かもしれない
大切な人に伝えたいことは伝えられているだろうか?

人の紛争は競争社会とお金がある限り、無くなることはない
笑顔が増えたからって世界は変わらない
桜が増えたからって紛争は終わらない

でも個人を救うことはできるかもしれない
桜からのメッセージを受け取った人にはわかるかもしれない

エッセイについてはコチラを確認してください

エッセイについて

エッセイとは エッセイとは特定の文学的形式を持たず、書き手の随想(思ったこと・感じたこと・考えたこと)を思うがままに書き記した文章のことである らしいです つまるところ、「自由に考えたこと自由に書いていくもの」です 凝り固まった[…]

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